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追記、菅原文太さん亡くなる

以前に喫煙と膀胱癌の関連を調べるために芸能人の膀胱癌罹患状況と喫煙歴をまとめました。

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その中で進行した膀胱癌にも関わらず膀胱全摘をせず、先進的高度医療(陽子線照射と動注化学療法)により膀胱癌を治療した菅原文太さんのケースにも触れました。その後の経過は不明ですが、2014年の11月28日に菅原文太さんは『転移性肝癌』にて亡くなったそうです。
転移性肝癌、つまり肝臓以外の臓器に出来た癌が肝臓に転移したとのことですが、ネット上に原発巣の記載は見つけられませんでした。
『膀胱癌は完治したから、どこの癌が原発なのか』という記載をネット上に散見しました。菅原文太さんのように原発巣、つまり膀胱に存在する癌が治療により縮小もしくは消失しても、その後転移は起こりえます。これは癌細胞が血管内やリンパ管内を循環しているためと考えられています。原発巣への治療(手術、放射線照射、陽子線照射など)だけでは循環している癌細胞には効果がないため化学療法をやる必要があります。菅原文太さんのケースは膀胱癌診療を考える上でいくつかの重要な点を含んでいます。
①膀胱全摘+化学療法を回避したこと
菅原文太さんは進行した膀胱癌なので本来であれば膀胱全摘と化学療法が必要となります。これら治療は両方とも身体に大きな負担をかけますし、膀胱全摘は術後の生活に大きな影響を及ぼします。膀胱を摘出すると、腎臓で産生さえた尿は行き場を失うため新しく尿を貯める場所を作らなければなりません。新しい尿を貯める場所としては、自分の腸の一部(基本的には回腸)を切除して膀胱にする手術、人工膀胱を埋め込む手術、腎臓から膀胱への尿の通り道(尿管)を直接皮膚に出しストーマを付ける手術、などがあります。いずれにせよ膀胱のように尿を収縮して押し出す能力や貯める能力は元通りにならず、自分で尿道から管を入れて尿を出したり、尿をためる袋を逐一変えたりする必要があります。このような状況となっても頑張って社会生活を送っている人はたくさんいますが、負担となっているのは間違いありません。菅原文太さんは膀胱を温存できたことで膀胱癌治療後でも仕事をやり続けられたのかも。
②先進医療の有効性
菅原文太さんが行った陽子線+動脈内注入化学療法は一般的な治療ではありません。
症例数の集積が膀胱全摘+化学療法よりも少ないため、有効とは考えられているものの、確立された治療法とは言えないでしょう。もし菅原文太さんが膀胱全摘+化学療法を選択したのであれば肝臓に転移せずもっと長生きすることができたのか。それは誰にも分かりません。
ただ一つ言えることは①で挙げたように生活の質は膀胱全摘+化学療法よりかは落とさずに済んだのでは、と思います。
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癌への治療法は進歩し、多岐に渡っています。施設によって出来る治療も大きく異なりますし、値段もまったく違います。最近は患者さんと医師が相談してどの治療法を選択するか相談する機会が増えてきており、私自身は良い傾向と考えています。菅原文太さんが行った選択は、今後の癌治療方針の決定について良い影響を与えたと思います。
最後になりますが、名優菅原文太さんのご冥福をお祈りいたいます。