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長文カルテのすすめ。訴訟対策

100%必中の診断や治療というのは存在するのでしょうか。地雷疾患と訴訟に関して。

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診察を丁寧にして、検査を色々行ったとしても患者さんに重大な病気が隠れていることは、少なくありません。後日何らかのきっかけで隠れていた病気が見つかった場合、患者さんやその家族が思うことは2つあります。

「あ~、見つかって良かった」そして「あの医者、見逃したんじゃ…。これって医療ミス?」。

診察した際に気付かず、後に障害を残したり、命にかかわる事態を起こす疾患は「地雷」と呼ばれ、医者は皆恐れています。地雷と言うあだ名の通り、気付かずに踏むと大変なことが起きます。地雷を踏まないように慎重に診療を行っていますが、検査が十分にできない施設だったり、診断が難しい疾患である場合は、地雷を踏む踏まないの差は、運次第です。地雷を踏み、医療訴訟になってしまった場合、法廷で待っているのは診療のあら捜しです。いくら診察や検査をしっかりしても、それらが十分ではない証拠を原告弁護士は探してきます。世の中には教科書や文献というのは質を問わなければいくらでも存在するので、もし被告医師が一般的な診療をしていたとしても、問題を追及することはたやすいと思います。この実情を踏まえ、医者はどうすべきなのでしょうか。僕は「カルテをしっかりと書く」ことだと思います。例をあげて説明します。

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下痢、発熱を主訴に受診した幼児。全身状態もよく、食事もとれていたため胃腸炎として帰宅させました。しかし、帰宅後体調が急激に悪くなり。死亡してしまいました。

実はこの幼児、0-157による感染性大腸炎だったのです。

この裁判の際、争点になったのは「血便の有無を問診したかどうか」でした。診察した医師は血便が無いことを問診から確認したと主張していますが、運悪くカルテに「血便なし」とは書かれていませんでした。0-157による感染性大腸炎は血便が診断のキーワードなので、このことを問診しなかった、つまりは不十分な診察をしたとして原告弁護人は主張してきました。

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この判例からわかることは、カルテにはしっかりと陰性所見(無いことを確認した所見)も書かねばならない、ということです。自分がやった医療行為について、何の落ち度もなかったことをカルテに書かなければ、運が悪いと訴訟に巻き込まれることが実証された勉強になる判例です。年長医師のカルテを見ると詳しく書いてないことがあり、僕らは「ツイッターカルテ」と言ってよく馬鹿にしていました。ツイッターカルテでは自分の行った医療行為が正しかった証明はできず、何か起きた場合に、「私は正しいことをした」と主張しても、それを裏付ける証拠にはなりません。そして医療行為には経験に基づいて行われている事も多く、文献で自分の行動を担保できるとは限りません。

行政も学会も、「この疾患にここまで検査や治療をすれば、何が起きても免責」ということは決めていないため、自己防衛のためにカルテの十分な記載が必要と考えます。

 

そして、以前のエントリに書いたような地雷疾患対策のカルテのテンプレートを共有することは、医者同士にとって有益と考えています。そして、このカルテテンプレートは重大な疾患をしっかりと除外除外できるように作る訳ですから、患者さんにとっても有用です。